新型コロナウイルス対応で福岡県が独自に続けてきた飲食店の営業時間短縮要請などがすべて解除され、15日から県全域で通常営業できるようになった。時間を気にせず酒を出せるのは2カ月半ぶり。苦境が続いた飲食店はひとまず胸をなで下ろしている。
「待っていました」。北九州市小倉北区の小倉駅近くのビアレストラン「門司港地ビール工房」は15日夕の開店から間もなく、全約30席が予約客で埋まった。10月1日からの午後9時までの時短営業を、この日から10時半までに戻した。
地元の会社の先輩2人と訪れた森元祐一さん(31)は「うまいビール屋さんに行こうと4月に誘われて、やっと来られた。みんなで飲むとやっぱりおいしい」と顔をほころばせた。
普段は、店を直営する門司区の地ビール会社のビールが売り上げの半分を占める。6月には全国地ビール品質審査会でそのうちの一つ「ヴァイツェン」が最優秀賞を受賞した。だが緊急事態宣言などで酒を店内で提供できず、テイクアウトのみの営業が続いた。営業自粛期間中、店内の換気を良くするために空調設備を整えるなど対策を徹底して、県の感染防止認証を受けた。専用容器を用意して生ビールの持ち帰り販売も始めて好評だが、十分な売り上げには遠いという。
緊急事態宣言が解除された10月1日から店内で酒の提供を再開すると、常連客らで通常以上のにぎわいを取り戻し、今週末も予約で埋まった。マネジャーの福永直也さん(41)は「これから秋冬の味覚も用意します。おいしいビールを安心して飲める店として、多くの人に来てもらいたい」と期待を込めた。
「第5波」の拡大で県全域の飲食店に午後9時までの時短営業が要請されたのは8月1日。勢いは収まらず、県は酒類提供停止、店の休業と要請を強化した。10月1日に酒の提供再開を認めてからも、提供時間の制限やカラオケ利用自粛を14日まで続けるよう飲食店に求めてきた。
福岡・中洲のスナック「Mercy けいこ」は15日、2カ月半ぶりに営業を再開した。経営して35年目になる中野恵子さん(68)は「休んでばかりだと体がおかしくなる」と店に出る日を心待ちにしてきた。「ようやく開ける。中洲に明かりがついているのが本当にうれしい」と話した。午後9時ごろに訪れた会社経営の男性(54)は「アットホームな雰囲気で迎えてくれてほっとできるお店。ようやく来られてうれしい」と笑顔で話し、恵子さんの娘で店のママ、麻美さん(41)やスタッフたちと「再開おめでとう!」と乾杯した。ただ、恵子さんは「外で飲む習慣が薄れ、足が遠のいてしまっているのではないか」とお客さんの戻りが心配だ。「第6波」が来るのではないかも気にかかる。
県の認証はすでに取得した。「中洲で飲むのが楽しいと当たり前に思える日が早くきてほしい」と話す。
中洲に近い福岡市博多区上川端町の花店には、祝いの言葉を添えた華やかなスタンド花が並んでいた。全面解除にあわせて開店や営業再開する飲食店に届ける。従業員の佐藤将光さん(36)は「出だしは順調。このまま続いてくれれば」と期待する。
緊急事態宣言中は注文や来客が減少。仕入れを減らし、値下げをしても、毎日数十本の廃棄が出てしまったという。1カ月ほどもつコチョウランも仕入れを3分の1ほどに抑えた。「ショーケースが寂しくならないようにしていたが、なかなか数が読めなかった。仕入れた花は、きれいな状態でお客さんに渡したい」
コロナ前と比べて客が半減したという福岡市のタクシー運転手の男性(77)は「いよいよ全面解除。お酒を飲んだり、終電を逃したりした客は確実に増える。このまま観光客も戻ってくれれば」と期待を膨らませる。宣言解除後に少し客足が戻ったが、以前ほどではない。天神や中洲は客がいないため、待っていれば乗ってくれるJR博多駅前に並ぶ。一方、福岡県春日市のタクシー運転手の男性(71)は「どうせまた感染者が増える。あまり人出は変わらないのでは。またすぐ緊急事態宣言が出るんじゃないか」と懸念する。コロナ前は買い物時に利用してくれる常連客が10人ほどいたが、まだ利用控えが続いているという。
県は15日、独自の観光キャンペーン「福岡の避密の旅」の割引宿泊券や、国の「Go To イート」食事券の販売を2カ月半ぶりに再開した。感染の再拡大を防ぐため、3密回避▽マスク着用▽会食は2時間以内に▽大声を出さない▽感染防止の認証店を利用する、などを引き続き呼びかけている。(吉田啓、山田佳奈、古畑航希、杉山あかり)
熊本県も、熊本市内の飲食店を対象に続けていた営業時間の短縮要請を14日で解除し、15日から県内すべての飲食店が通常営業に戻った。今後は原則として基本的な感染防止対策を呼びかける。
蒲島郁夫知事は13日の会見で、時短要請に応じた飲食店などへの感謝を述べ、今後は感染拡大を防ぎながら県民生活や地域経済の回復に取り組んでいく考えを示した。(伊藤秀樹)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル